石鹸が何でできているのかすら考えたこともなかった私が、友人に分けてもらったコールドプロセス製法の石鹸をきっかけに、いきなり作り出すに当たって持った疑問は楽しすきる内容でした。
その友人は数年前に亡くなられてしまったのですが、某大学の教授だったので、私の疑問を引っ提げては化学に携わる方に質問してくれて答えをデータにして教えてくれたものでした。
ので、化粧品にしろ、香粧学ではなく化学からの答え、これがまたある意味、真っ直ぐ過ぎて面白く感じたものです。
とうにご存じの方も多いかと思われる内容ですが、石鹸を販売し始めたので、私が抱いた、なんで?を少し書いてみたいと思います。
ケン化ってなぁに?
これは通常、知られていることですが、強アルカリ(苛性ソーダ)が油脂と反応して弱アルカリに変化する反応です。
強アルカリは肌を腐食します。
なので、石鹸のケン化反応が不十分なままだと肌を傷つけます。
ここで、私が販売するような石鹸を浴室に飾る雑貨及び洗濯石鹸、としなければならない理由があるわけです。
あたかも親切ごかしに肌に良いものを広めている自己満足によって凶器を振り回しているという人もあるようですが、わからなくもないです。
気が引き締まるし、背筋が伸びるのて有り難い助言だと思います。
まぁ、屁理屈を言うと、洗濯石鹸だって肌に触れるのに、奇妙な盲点を開示してくれたもんだわさ、ではありますが。
とにかく。
自己での判断で自己の責任で使いたいように使ってね、としか、私には言えないのであります。
ケン化は、撹拌、保温、熟成の全てを真剣に丁寧にしなければ成功しません。
しかしそれでも尚、手作りでは苛性ソーダの98〜99%が反応できて御の字らしく、実際には未反応の苛性ソーダはもっと残っている可能性は否めません。
トレースが出て、保温した後、モールドの表面など、外気に直接触れている部分は温度が下がりやすいため、ケン化が不十分になりやすく、また、二酸化炭素にも触れやすいのでソーダ灰ができやすくなります。
ソーダ灰とは、石鹸生地の中で未反応なまま残留した苛性ソーダが空気中の二酸化炭素と反応した炭酸ナトリウムが変化したものです。
ケン化の未反応は、撹拌がしっかりされていない場合にも起こります。
撹拌がしっかりされていないと、強アルカリと混ざった油脂と混ざらなかった油脂が生じてしまい、石鹸ダマや層の分離となって表れますが、石鹸生地にムラが起こると石鹸化しない油脂が増えるし、油脂全体の混合が悪くなって、未反応のままの強アルカリが生地に残留してしまいます。
ケン化が始まると加熱したかのように熱くなりますが、この発熱こそがケン化反応が正常に起きている証拠です。
油脂の種類や気温湿度などの環境によって差はありますが、エーッ?ほどに熱くなる場合もあります。
そして大事なのは、保温することです。
ケン化をスムーズにしっかり進めるには、熱の調製が必要です。
私が主に使っている植物オイルは、45℃を最大として、それ以上の加熱は、その後は反応速度が穏やかに落ちます。
ケン化中に生地の温度を40〜45℃に保つことが良いケン化促進のキモてす。
この時に温度が低下するとケン化反応が緩くなり、石鹸化するスピードは著しく低下します。
そうしたまま固まって冷えてしまうと、ケン化反応のスピードは急速に落ちて、結果的に油脂と反応し切れなかった強アルカリが生地の中に残ります。
よって、ケン化反応が始まってからの24時間は、温度を保つことも キモとなります。
そして出てくる疑問。
手作り石鹸の場合、ケン化率を下げているので、配合した強アルカリは余すこてなく石鹸化できるはずで、残留するなんてことはないから安心だわ!と思っていた私は大勘違い。
「ケン化率」と、「未反応なく全てケン化する」、は別のことでした。
あくまでも、配合した強アルカリと油脂がキチンとしっかり反応されることが大切です。
さて、ガッツリとソーダ灰でも見えなければわかりにくいのですか、目に見えないとしても未反応の強アルカリがあるとして、それからどうなるか、どうすべきか。
石鹸は強アルカリと油脂をしっかり撹拌させてケン化の最初の24時間、良き温度を保ちながら保温し、続いて熟成に入ります。
私の最初の疑問は、熟成って実際は何よ?
表面的には、まだウニャウニャの石鹸の水分を飛ばして乾かすこと?というイメージ。
プラス、もっと大切な役割はアルカリ度を下げること。
生まれたばかりの石鹸はまだまだ物凄くアルカリ度が高くて使えません。
販売サイトには、はしょって、
「石鹸は熟成中にも粛々とケン化しながら同時に中のオイルは少しずつ酸化もします」、のようには書きましたが、
一度冷えて固まってしまった石鹸は、当然、熱を伴うケン化反応はもう進まないに決まっています。
ならば、何故に時が経てば経つほどにアルカリ度が下がってマイルドになるのか。
油脂と反応し切れなかった苛性ソーダは空気中の二酸化炭素と反応してソーダ灰、すなわち炭酸ナトリウムに変化しますが、このソーダ灰は、苛性ソーダまんまよりはかなり落ちてはいるものの、まだまだアルカリ度の高い物質です。
なので熟成中の石鹸を素手で触ると痛みはないものの、指先がガサガサになります。
しかしそのまま置いておくと、今度はゆっくりゆっくりとこの炭酸ナトリウムが炭酸水素ナトリウム、すなわち重曹に変化します。
これが、熟成期間が長ければ長いほどにアルカリ度が低下してマイルドな石鹸になる原因の一つのようです。
同時に熱を伴わない非常に非常に緩やかなケン化も進みます。
オイルによってケン化の速度が違いますが、これはそれぞれの乾性〜不乾性を決定するヨウ素価に関わるそうです。
ただ、私自身はヨウ素価と照らし合わせても、必ずしも合っている気がしなくてイマイチはっきりとした説明ができません。
何故なら、乳化作用を持つ微量成分が含まれていたら、ヨウ素価に関わらず早いからです。
オリーブオイルはケン化が激しく遅いです。
なので、オリーブオイルのみで作るキャスティール石鹸の熟成期間は最低3ヶ月というところもあるし、1年とするところもあります。
対してココナッツオイルのケン化は激しく速いです。
コメヌカオイルも乳化作用を持つ植物ステロールを抱えているので速いです。
ケン化させない未反応オイルのケン化率というのは、ひょっとしてケン化の遅いオイルたけが残りやすいか?という疑問が湧いたりもしつつ、分かりません。
とりあえず、危険度を粉砕するには撹拌から熟成に至るまで、とにかく丁寧に!なのだと思います。
※ヨウ素価
油脂の性状評価てあり、対象物質100グラムと反応するハロゲンの量をヨウ素のグラム数に表したものだそうです。
1つのエステルは1つの塩基でケン化(分解)されます。
1つの油脂は3つのエステルを持ちます。
1つの二重結合(C=C)には付加反応で1個のヨウ素分子(12)がくっつきます。
ヨウ素価130以上は乾性オイル
100〜130は半乾性オイル
100以下は不乾性オイル。
他の成分の影響を度外視した場合、ヨウ素価が低いほどにケン化か速く、撹拌を少し早めに切り上げないと型入れ寸前にはダンゴになってしまって空気穴ができたりして四苦八苦であります。